ベートーベンのピアノソナタを難易度レベル1~10に分けてみました
こんにちは。
千葉市中央区、花見川区でピアノ教室を主宰、指導歴30年以上の鳥海加奈子です。
今回は、ピアノ学習者にとって必須である、ベートーベンのピアノソナタの難易度について触れようと思います。
ベートーベンは、生涯をかけて32曲のピアノソナタを作曲しました。
全32曲もあると、まずどこから手をつけていいのやら…
戸惑ってしまう方もいらっしゃいますでしょう。
・有名な曲を弾きたいけど、いったいどれがどの程度の難易度なの?
・自分に弾ける曲はある?
と、そのように思っていらっしゃる方に向けて、私自身が過去に勉強した歳やレベルを基準にした、私なりのベートーベンピアノソナタ難易度レベル1から10までをお伝えいたしましょう。
これからベートーベンのピアノソナタを弾こうと思っている、あなたの参考になりましたら幸いです。
ベートーベンのピアノソナタの難易度レベル1~10まで
それでは、難易度の易しい順レベル1から順にご紹介していきましょう。
全楽章を通して平均を取っています。
例えば1楽章はそれ程でもなくても、3楽章が難しかったり、あるいは、その逆の場合もあります。
● 難易度レベル1
・ピアノソナタ19番
・ピアノソナタ25番
● 難易度レベル2
・ピアノソナタ6番
・ピアノソナタ9番
若い頃の作品というのは当たり前ですが、作品も若いということ。
内容や構成が複雑過ぎず簡潔ですので、理解しやすいです。
ベートーベン初心者さんは、まず前期の作品から勉強するといいでしょう。
6番は明るい曲を好む人向き。
● 難易度レベル3
・ピアノソナタ4番
・ピアノソナタ2番
2番はアウフタクトのリズムがポイント。
● 難易度レベル4
・ピアノソナタ7番
・ピアノソナタ3番
・ピアノソナタ8番「悲愴」
全楽章は無理でも1楽章、終楽章とされるのも良いです。
各コーダがエネルギッシュで、力強くカッコよく終わるのも発表会で人気の理由かもしれません。
3番は右手指の独立ができてから挑戦してください。
● 難易度レベル5
・ピアノソナタ16番
・ピアノソナタ13番
・ピアノソナタ15番
・ピアノソナタ18番
・ピアノソナタ12番「葬送」
・ピアノソナタ14番「月光」
・ピアノソナタ22番
タイトルがついてない、あまり知られていない作品も、地味にテクニックは難しいです。
ベートーベン三大ソナタは「悲愴」「月光」「熱情」です。
月光は圧倒的な人気曲ですが、ピアノ学習者は1楽章はやらなくても3楽章は必須です。
● 難易度レベル6
・ピアノソナタ27番
・ピアノソナタ17番「テンペスト」
当時は最初の4小節をどう弾くかなんて真剣には考えていませんでした。
テクニック的にはやさしいようにみえる、このようなソナタこそ表現するのは難しいと感じるようになったのは大人になってからでした。
● 難易度レベル7
・ピアノソナタ23番「熱情」
・ピアノソナタ26番「告別」
ワルトシュタインと熱情はコンクールでもよく弾かれます。
作品としても最高傑作ですが、テクニックの難易度も最高です。
熱情の終楽章は、テクニック的に無理でも1楽章だけでも先にみて、雰囲気をつかんで下さい。
嵐の前の静けさ、何か起こるような不気味な緊張感、気性が激しかった若かりし頃から今でも、お気に入りの1曲です。
● 難易度レベル8
・ピアノソナタ31番
● 難易度レベル9
・ピアノソナタ32番
若い頃は興味のなかった作品(興味があっても理解できなかった)ですが、今は凄く惹きつけられます。
過去を懐かしむような哀愁のあるフレーズ、現実には絶望の淵に打ちひしがれ、息も絶え絶えに嘆いていたベートーベンがやがて息を吹き返し、己に打ち勝ち歓喜へと到達する。
それをバッハを手本にフーガという形で表しています。
常に新しいソナタ形式を試してきたベートーベンが、最後に行き着いた所がバッハのポリフォニーだったのです。
バッハを音楽の神様と崇拝している私にとって、ベートーベンの後期の作品は、その形式も内容もとても魅力的に感じますし、やり甲斐があります。
● 難易度レベル10
本番まで1年間かけて準備をしました。
その時は出来る限りのことをしたつもりですが、今になれば、あれこれ足りないことばかりだったと思います。
29番は演奏時間が40分にも及ぶ大作です。
これを人前で弾けるようになる人はどれ程練習をするのでしょう…。
力量、体力、記憶力、精神力、どれも私にはかないません。
レッスンの過程でのベートーベンピアノソナタ
ピアノレッスンの過程で、ベートーベンのソナタを学び始めるのは、ソナチネアルバムが終わりソナタアルバムに入る頃です。
その後さらに進度が進んだり、音大受験を考えている学習者は、全32曲2巻に分かれた電話帳のように分厚いベートーベンのソナタアルバムを、数年かけてじっくりと学習します。
私自身も高校3年間はずっと、音大受験に向け受験課題曲であるベートーベンのソナタアルバムを勉強していました。
一度譜読みをしてさらっていた曲が課題曲になれば、そこから更に深く学べるわけですから、課題曲がでる数年前からベートーベンのソナタアルバムの1曲でも多くさらう必要があるのです。
ベートーベンのピアノソナタ全32曲を前期・中期・後期で分けてみる
さて、私なりのベートーベンピアノソナタの難易度レベルをご紹介したところで、全32曲が前期・中期・後期のどの時期に作曲されたものか照らし合わせつつ、彼の人生とともに振り返ってみましょう。
● 前期 1782年~1802年
*op.2-1~op.26 no.1~12
前期のこの時期、ベートーベンはピアニストとして活躍していましたが、作曲家としても認められ始めていました。
ベートーベンは音楽家に生まれましたが、残念ながらお父さんには恵まれませんでした。
お父さんはベートーベンを稼ぎ頭にして、自分は楽をするような人だったようです。
スパルタ教育でベートーベンをモーツァルトのように育てたかったようですが、今の世の中的に言えば純粋な教育というより、強要だったのではないでしょうか?
そのせいか、ピアノを嫌いになってしまった時期がベートーベンにもあったようです。
● 中期 1803年~1812年
*op.27~op.90 no.13~27
この時期から徐々に、彼は耳が聞こえなくなっていきます。
作曲家としては元より、ピアニストとしても活躍している彼としては致命的ですよね…。
どれほどの不安や焦りがあったでしょう。
そのような苦悩を抱えながらも、当時のピアノ(68鍵)をフルに活用したベートーベンらしい作風で最高傑作を出した、充実した時期です。
● 後期 1813年~1827年
*op.101~op.111 no.28~32
遂に全く耳が聞こえなくなりました。
また、亡き弟の息子カルルの後見人になり、甥っ子と同居してピアニストにさせようと育てるのですが子育てに苦労します。
自分自身が父親の愛情に恵まれなかったので、どう接してよいのかわからなかったのかもしれませんね。
自分自身の病状や甥っ子との関係を抱えながらも、人生に達観していく円熟期の作品になります。
後期の作品は”若い人には無理”と言われる所以は、こういう苦悩を抱えながらも生きていくベートーベンの内面を表現するのが難しいからだと思います。
ベートーベンの生涯の中で、苦悩や絶望を味わい、葛藤しながらも、彼がそれらを情熱をもって全て芸術に昇華していったことを理解した上で弾くことも大事でしょう。
楽譜を読み込み、読み解き、技術的なテクニックの上達をはかるのはもちろんのことですが、ベートーベンに限らず、作曲家の人生の背景や心の揺れをおもんぱかることも、ピアノ表現には必要です。
今回のベートーベンピアノソナタの難易度レベル別リストは、ベートーベンのピアノソナタを弾いてみたいあなたのご参考になりましたでしょうか?^^
東京オリンピック開催の2020年は、ベートーベン(1770年~1827年)生誕250年という記念すべき年でもあります。
世界中の目がベートーベンに向けらています。
彼の曲を弾いて、彼のピアノと彼の想いに触れてみる、よき機会となりますように。